読書の森〜ビジネス、自己啓発、文学、哲学、心理学などに関する本の紹介・感想など

数年前、ベストセラー「嫌われる勇気」に出会い、読書の素晴らしさに目覚めました。ビジネス、自己啓発、文学、哲学など、様々なジャンルの本の紹介・感想などを綴っていきます。マイペースで更新していきます。皆さんの本との出会いの一助になれば幸いです。

「幸福論」バートランド・ラッセル(岩波文庫)

f:id:kinnikuman01:20201213104844j:image

「幸福論」B.ラッセル 岩波文庫

819円(+税)

私たちの生は〈大地〉の生の一部であって、動植物と同じように、そこから栄養を引き出している。〈大地〉の生のリズムはゆったりとしている。

 

哲学者、数学者、核廃絶を目指す平和運動家としても知られる20世紀を代表する知の巨人、ラッセルが書いた幸福論。アラン、ヒルティ著の幸福論と並ぶ、三大幸福論の一つです。

ラッセルといえば、哲学者のウィトゲンシュタインの師にあたる人物としても有名です。

アランの幸福論は文学的、ヒルティの幸福論は宗教的だとすれば、ラッセルの幸福論は現実主義的です。精神、行動の両面から、幸福になるヒントをわれわれに与えてくれます。

文章は決して難解ではなく、具体的かつ明快、そしてユーモアあふれる筆致で人生の本質を突いています。

ラッセルは本書で「周到な努力さえすれば、誰もが幸福になることができる」と説いており、で非常に勇気をもらえる内容となっています。

 

●内容

まず、不幸の原因について解説し、その後、それでも幸福は可能か?ということについて、考察しています。

 

●不幸の原因

競争、疲れ、ねたみ、被害妄想、世評に対する怯え。

本書ではそれぞれがなぜ不幸の原因となるかについて、説かれています。

これらが不幸の原因として挙げられるのは非常に納得の出来る話です。

たとえば、競争原理の中で暮らしていると、心が休まる暇がありません。自分が競争の中で、上位の位置につけば、一時的な満足感は得られるかもしれませんが、いつ自分の立場が脅かされるかわからない、非常に不安定な状態に陥ります。また、他人の事をねたんだり、被害妄想をたくましくしたりすることにも繋がります。

資本主義社会ではしばしば「競争」が重視され、個人の競争心を煽ることがなされます。しかし、問題はそれによってわれわれが幸福になれただろうか?という問いです。

多くの人は「ノー」と答えるでしょう。なぜならそれは本来の人間とはずれたライフスタイルだからです。

 

●幸福になるためには

①外界に興味を抱け!

幸福を得るためには、私心ない興味を持っていることが大切だといいます。ラッセル、例えば、科学者は幸福だと述べています。なぜなら、自分の研究がたとえ世の中の役に立たないことであっても、興味にしたがって何かに没頭している科学者の様な人たちは幸福であると述べています。また、自己に向けた関心は自意識過剰な状態へと繋がり、人を不幸にすることにつながります。

 

②「実りのある単調さ」の中から偉大な事業は達成する。

偉大な本は、おしなべて退屈な部分を含んでいる。

資本主義社会は人々の欲望を絶えず刺激し、絶えず興奮状態に誘おうとします。世の中のありとあらゆる企業の目的は、とにかく消費者の購買意欲を刺激する事でしょう。恐らくは広告戦略なども人間の脳の構造まで踏まえた上で練られているはずです。どのようにすれば、ドーパミンを放出され、購買意欲が掻き立てられる広告を作ることが出来るかどうかなど。そして、我々もまた、資本主義社会にどっぷり浸かっているため、絶えず興奮を求め、退屈な状態が耐えられなくなっている筈です。

しかし、ラッセルは、「退屈を恐れて浅薄な興奮ばかりを追いかけていては、人生が確実に貧しくなる」と言います。カントやダーウィンを挙げ、静かな生活を送っていた事が偉大な人物の特徴であり、退屈に耐え、地味に思える事を粘り強く継続することが重要であると述べています。

 

③他人との比較をやめる

他人と自分との比較は時間の無駄であるとラッセルは説いています。

手に入る楽しみをエンジョイし、しなければならない仕事をし、自分よりも幸福だと(もしかしててんで誤って)思っている人たちとの比較をやめるなら、幸福は誰にでも訪れる。

他人との比較は時に妬みの感情を引き起こします。もっと自分に才能があったら、お金があったら、家柄が良かったら…他人との比較で生まれる感情には負の感情がつきまといます。幸福になるには、まず、他人との比較をやめるべきであるとラッセルは述べています。

 

●感想

ラッセル幸福論のテーマは「バランス感覚」、

「外界への興味」、「他者との繋がり」です。何事も行きすぎず、中庸の徳を実践していくこと、幅広いものに興味を持つことが重要であると説かれています。難解な箇所はなく、ラッセルがわれわれに具体的なアドバイスをしてくれています。

ラッセル自身、内省に終始するのではなく、積極的に社会と関わり、行動してきた人でした。核戦争批判運動、ベトナム戦争への批判など。

「幸福」について、非常に現実的、論理的に分析しているのが本書の特徴です。堂々巡りの考えに陥る事なく、行動に移していく事。直ぐに実行に移したい内容がたくさん詰まっている良書です。