読書の森〜ビジネス、自己啓発、文学、哲学、心理学などに関する本の紹介・感想など

数年前、ベストセラー「嫌われる勇気」に出会い、読書の素晴らしさに目覚めました。ビジネス、自己啓発、文学、哲学など、様々なジャンルの本の紹介・感想などを綴っていきます。マイペースで更新していきます。皆さんの本との出会いの一助になれば幸いです。

サピエンス全史(下)の内容・感想など

サピエンス全史(下)

f:id:kinnikuman01:20220313213829j:image

今回ご紹介するのは、サピエンス全史(下)です。上巻はサピエンスの誕生から、認知革命、農業革命、科学革命の3つの革命を経て、繁栄を極めるに至った人類の歴史について俯瞰してきました。虚構を生み出すことによって何千、何万という個人が団結出来、宗教や神話、都市、国家を生み出したところが、人類が他の動物たちと圧倒的に異なる点であり、繁栄を極めた要因として分析されています。

サピエンス全史下巻では、宗教という超人間的秩序、科学革命がもたらした進歩主義産業革命、資本主義などについて深堀りした議論が展開されています。

教養に関する本は数え切れない程出版されていますが、巷の教養本を数十冊読むよりもはるかに多くの知見が得られる本であると思います。

面白いと思ったところをご紹介したいと思います。

 

〇宗教~超人間的秩序

宗教という超人間的秩序は、貨幣や帝国と並び、人類を統一するための要素の一つである。社会秩序とヒエラルキーは想像上の脆弱な構造に超人間的な正当性を与える。

本書において、宗教とは、超人間的秩序に基づく人間の規範と価値観の制度であると位置づけられています。

 

宗教と呼べるためには、大きく、2つの基準があります。

1.超人間的な秩序の存在(人間によってつくられたルールではないこと。)

2.超人間的な秩序に基づいた規範、価値観

 

この2つの条件を満たすものとして、自由主義的な人間至上主義、共産主義一神教多神教アニミズムなどを宗教として紹介しています。

宣教を行う宗教は、BC.1000年ごろに現れ始め、人類の統一に大きな貢献を成しました。

それまでは、アニミズムが主流で、人々は動植物、死者の霊、精霊を崇めていました。

その後、徐々に世界各地で多神教が誕生します。

多神教は、ギリシャや北欧などで隆盛を誇り、多数の神を信じていることから、宗教的寛容性が特徴的です。古代の多神教国家は、被支配民を改宗させようとはしませんでしたが、その代わり、帝国の神々、儀式を尊重するように求めました。

例えば、ローマ帝国では、キリスト教徒たちに、彼らの信仰や儀式をやめるように要求はしませんでしたが、帝国の守護神、皇帝の神性を尊重するように求めました。

キリスト教徒たちがこれを猛然と拒否したうえ、あらゆる妥協の試みを退けると、ローマ人はキリスト教徒を危険な団体とみなし、迫害しましたが、その迫害も本気のものとは言い難かったといいます。

キリスト教が誕生し、コンスタンティヌス帝が改宗するまでの300年もの間、ローマ皇帝キリスト教徒を迫害したのは計4回で、犠牲者は数千人出ましたが、その後、1500年もの歴史の中でキリスト教徒がわずかな教義の差で殺しあった結果、出た犠牲者の数は数百万人にも及びます。

特に、1527年8月23日に起こったフランスのカトリック教徒がフランスのプロテスタントコミュニティを襲撃した、バルトロマイの大虐殺では、5000~10000人のプロテスタントの命が奪われ、これは、ローマ帝国がその全存続期間中に迫害したキリスト教徒の人数を上回りました。

一神教は、それまでユダヤ教の一宗派に過ぎなかったパウロが宣教活動を始めたことから始まり、数百年かけてローマ帝国イスラム教の誕生とともに西アジア~インドまで広がりました。

今日、東アジア以外の人々は何かしらの一神教を信奉している状態となっています。

しかし、現代の一神教多神教からの影響も多分に含んだものになっており、キリスト教では、聖人たちが神殿で祀られている状態となっています。(聖アンデレ、マルコ、マタイ、アガティウス、、)

また、ゾロアスター教の流れを汲み、二元論的な価値観も取り込んでおり、新約聖書には、悪魔(サタン)も登場します。

一神教の中では、仏教は異質で、神を重要視していません。ゴータマシッダールタは人間の世が不安、落胆、憎悪、苦しみに満ちていることを認識し、その原因が渇愛にあることを見出し、その渇愛から自由になるための法を説いたものが仏教となりました。

 

〇科学革命

科学革命の特徴について、本書では以下の点を挙げています。

 

1.進んで無知を認める意志

私たちは全てを知っているわけではない、という前提に立ちます。また、私たちが既に知っていると思っていることも、後に誤りがある可能性があることを認めます。

 

2.観察と数学の中心性

 

3.新しい力の獲得

技術を用いて、テクノロジーの開発を目指す。

 

特に、1.の考えがそれまでの社会とは全くことなる考えであったことを指摘しています。

近代以前の社会では、重要なことは既に全て知られていると考えていました。全ての答えは聖典の中に存在し、書かれていないことは重要ではないものだと認識されていたのです。

その意味で、私たちに知らないことがあるという考え方は斬新であり、科学革命の原動力となりました。

イデオロギーと呼ばれるものは、科学的なものを一つ選び、それが絶対普遍のものであると宣言するという意味で、科学とは異なります。たとえば、マルクス主義などはイデオロギーに該当します。

この、進んで無知を認める意志は、ジェームズクック、マゼラン、チャールズ・ダーウィンに代表されるようなあらゆる探検、調査、そして征服につながることになります。

 

また、3.について、技術によって、力の獲得を目指すという考え方も、近代以前にはない、新しい考え方でした。

現代では、科学の価値は、何よりも、その有用性によって測られます。テクノロジーは、常にそれを用いた装置に変換されます。

現代の戦争は科学の所産であり、ドイツのV2ロケットジェットエンジン原子爆弾まで生み出しました。

19C.までの戦争は、テクノロジーの差よりも、戦略、組織、規律がものを言う時代でした。ローマ軍が強かった理由は、鉄の規律、大規模な予備兵力、効率的組織にあったと言われます。

また、爆竹は、中国で、道教錬金術師によって偶然発見されたと言われていますが、中世版マンハッタン計画を実行して、兵器を開発しようとする皇帝は現れませんでした。ヨーロッパの戦場で、大砲が決めてとなったのは、火薬の発見から600年も経ってからです。

テクノロジーの進歩が力をもたらすと考え始められたのは、割と最近のことなのです。

それまでは、進歩という概念は良いどころかむしろ、不遜ですらありました。神話には、人間が進歩することを諫めるような物語が多数存在します。旧約聖書バベルの塔イカロスの翼などが代表例です。

また、資本主義+産業革命により、科学・軍事・テクノロジー・産業が結びつき、科学研究は実用性が強調されていくことになります。

しかし、科学は、何がどうなっているかを解明するものの、それをどう使うべきか、という問いには答えてくれません。その答えを用意するのは、倫理や宗教、イデオロギーの役目となります。

 

〇資本主義~拡大するパイという資本主義のマジック~

西洋の発展は、科学革命と資本主義が結びついたことにより達成されたといっても過言ではありません。

科学革命が人類にもたらした大きな概念は、「進歩」です。現代に生きる私たちは、科学における新たな発見が人類を豊かにしていくということを信じて疑わなくなっていますが、少なくとも中世以前の社会では、そのように考えられていませんでした。世界全体としての富の総量は変わらないため、富を得るためには「どこかから奪ってくるしかない」という考えが普通でした。

科学の発展に伴い、進歩を疑わなくなった人間の中には、「将来への期待」が強くなります。そして、その期待に対して「投資する」という考えがうまれます。

「利潤を再投資せよ。」これが資本主義の大原則です。

アダム=スミスの「国富論」には次のようにあります。

 

冨を得た者は、富を使って投資し、更なる利益を得ようとする。利益を得ると、雇用も増え、全体の富の増加と繁栄に繋がる。「利己主義」が「利他主義」に繋がるのである。

以上の様なアダム=スミスの文章を読んでも何ら真新しいものに感じない理由は、私たちがあまりに資本主義的な考え方に慣れ親しんでしまっているからに他なりません。

資本主義の本質は、人々は他の人の財産を奪い取ることで利益を得ることではなく、利益を更に投資することによってパイ全体を大きくしていくことにあります。

中世以前の社会では、利潤を投資に回して生産量をさらに増やすという考え方は、一般的ではありませんでした。中世の貴族たちは、民衆から得た富を豪華な晩餐会、邸宅、戦争、大聖堂の建築などに使いました。

資本主義は、未来に対してこうした資本主義が科学と結びつくことによって力強いダイナミズムを生み出していくことになりました。

大航海時代、スペインのイザベラ女王は、金銀の鉱山開発、たばこのプランテーションによる利益を見込んだからこそ、コロンブスに投資することを決めました。

信用に基づいた投資が新たな地図上の発見を生み、植民地支配へとつなげ、さらなる大きな利益につながっていくことになります。

 

科学と人類の幸福

科学の発達は目覚ましく、人々の日々の生活は向上していきました。

バイオテクノロジーの発達などは目覚ましく、ゲノム編集により、記憶力が向上したマウスをつくることに成功するほか、ハエ型の情報収集機器(昆虫サイボーグ)などを生み出すことにも成功しています。

この先、ゲノム編集されたホモ=サピエンスが誕生したりするならば、人間同士の格差はこれまでにないほど拡大すると本書では私的されています。

また、脳と直接電子機器をつなぎ、他者の記憶を共有する技術さえ生まれる可能性があると言われています。

科学の力によって、サピエンスの力は大幅に増しましたが、それによって幸福がもたらされたとは言い難い部分があります。

人類にとっての幸福とは何か、今後の倫理学のメインテーマとなる問題でしょう。

 

感想など

上巻に引き続き、人類を席巻してきた宗教革命や科学革命、資本主義等について、非常に鋭い考察がなされています。

豊かな想像力によって、これまでの地球の歴史において前例の無い、様々な考え方や制度をつくってきた人類ですが、これからどこへ向かっていくのでしょうか?そして、そもそも人類にとっての幸福とは何なのでしょうか。

それらに対する答えを未だ人類は持ち合わせてはいませんが、本書では、サピエンスの歴史を学ぶことから「幸福について考える」という重要な視点を与えてくれています。

何度も再読する価値のある一冊であると思います。