読書の森〜ビジネス、自己啓発、文学、哲学、心理学などに関する本の紹介・感想など

数年前、ベストセラー「嫌われる勇気」に出会い、読書の素晴らしさに目覚めました。ビジネス、自己啓発、文学、哲学など、様々なジャンルの本の紹介・感想などを綴っていきます。マイペースで更新していきます。皆さんの本との出会いの一助になれば幸いです。

「モモ」ミヒャエル・エンデ著(岩波少年文庫)のあらすじ、感想など

「モモ」(ミヒャエル・エンデ著)

モモは、「時間」をテーマにした児童文学で、大人にこそ読んでほしい内容となっています。「豊かな時間」について考える機会を与えてくれる名作であると思います。

時間どろぼうと、盗まれた時間を人間に返してくれた不思議な少女、「モモ」の物語

1947年にドイツ児童文学賞を受賞した作品です。時間どろぼうに奪われた人間の時間を取り戻す冒険ファンタジーです。児童文学ですが、人間本来の生き方を忘れてしまっている現代人に対して警鐘を鳴らす内容で、大人が読んでも楽しめる作品です。

不思議な少女、「モモ」と時間どろぼう=灰色の男たちとの攻防が見どころです。

登場人物

モモ・・都会の外れにある、円形劇場に住み着いた、もじゃもじゃ頭が特徴の不思議な少女

ベッポ・・道路掃除夫として働く老人。自分の仕事に愛着を持っている。今、この瞬間を大切に生きており、私利私欲は無い。周囲から変人であると思われている。

ジジ・・観光ガイドとして働く若者。口が達者で常に冗談を言っている。お金持ち、有名人になりたいと思っている。空想の冒険物語を人に聞かせるのが好き。

灰色の男たち・・人間の時間を奪うことで生きている「時間どろぼう」。言葉巧みに人々に対して時間を節約して生きるように迫る。

マイスター・ホラ・・時間を司る存在。「時間の国」に住んでいる。普段は老人の様な姿をしている。

カシオペイア・・マイスター・ホラの相棒のカメ。時間の国へ行く術を知っている。前もって将来起こることを予見できる。

 

あらすじ

「モモ」のあらすじを紹介します。

とてもふしぎな、それでいて日常的な一つの秘密があります。すべての人間はそれにかかわりあい、それをよく知っていますが、そのことを考えてみる人はほとんどいません。たいていの人はその分けまえをもらうだけもらって、それをいっこうにふしぎとも思わないのです。

〇不思議な少女、モモ

物語の主人公は、都会の外れにある円形劇場跡地に住みついた、もじゃもじゃ頭が特徴的な不思議な少女、「モモ」です。

「人の話を聞くこと」が得意な「モモ」の周りには自然と人が集まってくるようになりました。

人々は、モモと話をしていくうちに悩みが小さくなっていきました。モモにはジジやベッポ、子どもたちといった友人がいましたが、ある日、町を灰色の空気が覆うようになります。「灰色の男たち」が町にやってきました。

〇街を覆う灰色の空気

床屋のフージー氏の前に、全身灰色ずくめの男が現れ、フージー氏が現在

・人生を浪費していること

・もし時間にゆとりがあればもっと豊かに生きられること 

を言葉巧みに説きます。

灰色ずくめの男はおもむろにフージー氏が無駄にしている時間を計算し始めます。

睡眠時間や仕事、食事、お客さんとのおしゃべり、友達と会うこと、本を読むこと、、

これらの合計が1,324,512,000秒であるとし、これがあなたが今まで無駄にしてきた時間であると指摘します。

そして、「時間の倹約」と「時間貯蓄銀行」に時間を預けることを勧めます。

フージー氏は以降、無口で仕事をするようになり、助手を雇い、1秒も無駄にしないように努めました。しかし、フージー氏は暫くすると、倹約した時間は自分のもとには帰ってこないということに気が付きました。

それから、フージー氏と同じことが大勢の人々にも起こりました。

やがてテレビや新聞、ラジオの標語には、

「時間節約こそ、幸福への道」という標語が並ぶことになり、町の人たちは次第にくたびれ、怒りっぽい顔になっていきました。

〇灰色の男たちとの遭遇

モモやジジ、ベッポは街で起こっている異変に気が付きました。あまり、モモのところへ人が来なくなりました。

ある日、モモの目の前に灰色づくめの男が現れます。モモを目の前にした灰色の男は次の様に語ります。

人生で大事なことはひとつしかない。それは、何かに成功すること、ひとかどのもにになること、たくさんのものを手に入れることだ。

さらに灰色の男は続けます。

きみがいることで、きみの友だちはそもそもどういう利益を得ているのか。きみは、金をもうけ、えらくなること。。みんなの前進を阻んでいる、みんなの敵だ!

モモは、寒気で身体がぶるぶる震えますが、灰色の男に対して、活動の目的など、質問を繰り返します。

モモの「聞く力」により、灰色の男は「秘密」をしゃべってしまいます。

秘密をしゃべってしまったその灰色の男はその後、他の灰色の男たちが取り仕切る裁判にかけられ、存在を消されてしまいます。

「モモ」の存在に脅威を感じた灰色の男たちは、モモを指名手配し、捕らえる方向で一斉に動き出します。

〇モモ、時間の国へ

一方、モモは円形劇場に突如現れた不思議なカメ、カシオペイアに導かれ、「時間の国」へと向かいます。

灰色の男たちに追跡されますが、カシオペイアはどこの通りを通れば灰色の男たちに遭遇しないかをあらかじめ予見した上で歩き続け、灰色の男たちの追跡を振り切り、「時間の国」に到着します。マイスター・ホラが住む時間の国は天井が非常に高く、様々な種類の時計が掛けている不思議な空間です。

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モモはそこで、「時間そのもの」の存在とも言える、「マイスター・ホラ」と出会います。そこで、マイスター・ホラは灰色の男たちが「人間の時間を奪うことで生きている」ということ、人間自身が灰色の男たちの発生を許す条件をつくりだしていることを語ります。

そして、モモは時間の国で「時間の花」、それらを生み出す源、太陽と月、星々の声も感じました。

〇モモ、もとの世界へ

モモが時間の国からもとの世界に戻ると、その間、現実世界では1年もの時間が経過しており、実にいろいろなことが起こっておりました。

~観光ガイドのジジに起こったこと~

観光ガイドのジジは、簡単に灰色の男たちに丸め込まれてしまいます。新聞記事に、「ほんとうの物語の語り手として、最後の人物」という記事が出て、多くの人がジジの話を聞くために訪れ、やがて、一躍大人気の人物となります。また、名前をジロラモと名乗り、高級住宅に住み、常に時間に追われ、新しい話のネタを考え出すことは出来なくなってしまいました。

そして、想像力の赴くままに空想の話をしていた、モモと一緒にいた頃を懐かしく思うようになります。

 

~道路掃除夫のベッポに起こったこと~

警察に対して、モモが姿を消したことを繰り返し話しましたが、理解してもらえないばかりか、頭がおかしい人物と思われ、留置所に送られてしまいます。

そこでベッポは灰色の男に会い、交換条件を持ち出されます。

お前が今後いっさい、われわれやその活動についてしゃべらないというのなら、あの子を返してやる。さらにいわば身代金として、総額十万時間を貯蓄してもらおう。

ベッポは時間を節約するため、仕事への愛着など持たずに、ただせかせかと働き続けました。夜となく、昼となく道路を掃き続け、仕事を愛する気持ちを失ってしまいました。

〇モモと灰色の男たちとの闘い

自分の大切な友人たちが灰色の男たちの標的にされたことを知り、モモは灰色の男たちと対峙して人々の時間を取り戻す決意をします。

再びマイスター・ホラがいる時間の国に行き、灰色の男たちが人々の時間を金庫に貯蔵していること、人々の時間を葉巻にして吸うことで生きながらえているという秘密を教えてもらいます。

マイスター・ホラは一時的に時間をストップすることで、物理的に灰色の男たちが人々から時間を奪えないようにしました。モモには「時間の花」を託すことでその間も行動することが出来るようにしました。

灰色の男たち・・マイスター・ホラから直接時間を奪い取るため、時間の国を包囲していましたが、時間が止まったことが分かると、大慌てで葉巻を奪い合うなど乱闘し始めます。そして、町に戻り、「時間貯蔵庫」へ向かいます。

モモとカシオペイアは時間貯蔵庫の場所を突き止め、それを開放することで人々の時間を取り戻したのでした。

 

感想など

児童書ですが、大人にも読むことをお勧めしたい一冊です。何事についてもスピードが求められる現代社会は、特に「時間どろぼう」が生まれる温床になっていると思います。

モモでは、灰色の男たちが人々に対して時間を節約するように説得します。人々はそれに騙され、効率的に時間を使うことで時間を節約し、貯蓄するようになります。

しかし、節約した時間は人々のもとに帰ってくる訳ではありません。

「効率的」という言葉は大きな魅力を持つ言葉です。お金を効率的に稼げる、効率的に知識を習得できる、といった言葉は非常に魅力的に聞こえます。そうした、効率性を追求する態度は何か大きなものを犠牲にしてしまっているのではないか、という問題提起を読者に対して行っているのが本書です。

レイ・ブラッドベリの小説、「華氏451度」に通じるメッセージ性も感じました。

読書に例えるなら、速読して効率的に知識を得ることより、お気に入りの一冊をじっくり読んだ方が豊かな時間を過ごせるのかもしれません。