読書の森〜ビジネス、自己啓発、文学、哲学、心理学などに関する本の紹介・感想など

数年前、ベストセラー「嫌われる勇気」に出会い、読書の素晴らしさに目覚めました。ビジネス、自己啓発、文学、哲学など、様々なジャンルの本の紹介・感想などを綴っていきます。マイペースで更新していきます。皆さんの本との出会いの一助になれば幸いです。

「ゾウの時間、ネズミの時間~サイズの生物学~」(中公新書)の要約・感想など

 

「ゾウの時間、ネズミの時間 ~サイズの生物学~」(中公文庫)



新年1冊目にご紹介するのは、「ゾウの時間、ネズミの時間」(中公文庫)です。

 

動物の身体のサイズによって、寿命や時間の流れる速さ、生息域や行動圏、基礎代謝など、生命それぞれにとっての時間、ライフスタイルなどが様々に異なります。

「自分がゾウ程の大きさであれば世界はどのように見えるだろう?あるいはネズミほどの動物だったら世界はどのように映るだろうか?」という風に考えてみたことはありますか?

 本書では生物学の研究を生かし、動物のサイズと時間や行動などを科学的に分析・検討、解説しており、私たちの知的好奇心を刺激してくれます。

 

年代問わずおすすめ出来る生物学の本です!!

 

本書の内容の概要をご紹介します!!

 

〇体重と時間の関係

・時間:体重の1/4乗に比例する。

→体重が16倍になると、時間は2倍になる。

 

・時間がかかるあらゆる生理的現象

心臓の拍動、血液の循環、異物を体外に排泄する時間

 

・哺乳類の心臓の拍動回数

一生に20億回。(動物のサイズに関わらず、不変。)

 拍動する回数はサイズに関わらず変わらないが、拍動するスピードはサイズによって大きく異なるため、物理的な時間で言えば、ゾウはネズミよりもずっと長生きする。

 

〇大きいことは良いことか?

 身体が大きいことのメリットは、環境に左右されず、自立性を保っていられるということである。

 まず、体温については、サイズの大きいものほど恒常性を保ちやすい。

 これは、風呂のお湯がコップの中のお湯と比べて冷めにくいのと同じ理屈である。サイズが大きいほど、寒い外気に接する表面積が小さくなるため、温度を保ちやすくなる。

 サイズが大きい動物ほど急激な温度変化にも耐えられる。恒温性に優れていると体温を常に高い状態で維持し、素早い運動が可能というメリットがある。

 また、恒温動物では、サイズが大きいものほど、恒温性を維持するためのエネルギーは少なくて済むため、結果的に省エネとなる。

 飢えにも強いというメリットもある。体重あたりのエネルギー消費量はサイズが大きい動物ほど小さくなるため、体重比では少ない食糧でも身体を維持できる。また、サイズが大きいと移動範囲も大きくなり、食糧を見つけ出しやすくなる。

 反対に、小さい動物は、恒温性を維持するために多くのエネルギーを必要とするため、身体の割にはたくさん食べる必要がある。 例えば、アメリカムシクイという小さな鳥は、30秒に1回の割合で昆虫を捕まえる。したがって、大きな動物ほど、食事に要する時間は少なくて済む。

 さらに、大きければ他の動物と比べて食糧が得られやすい。サバンナでの水場での優先順位はゾウ→サイ→カバ→シマウマ、、など身体が大きい順である。

 

 大きくなることには上記の様にメリットがたくさんあるため、かつては、生物は進化を経て巨大化していく、という説が唱えられた。(コープの法則

 しかし、現実には全ての動物が巨大化の道を歩んでいる訳ではなく、この説は現在否定されている。

 

〇大きいものと小さいもの

アフリカゾウの成獣。体重は最大で5~7トンに及ぶ。

 

トウキョウトガリネズミ。最小の哺乳類。



生物進化の歴史上、大きなものがいつも優位という訳ではない。進化はいつも小さいものからスタートする。

 小さな生物:一世代の寿命が短く、個体数も多いことから、短期間で新しいものが突然変異で生まれ出る可能性が高い。

 そのため、遺伝子の突然変異が起こりやすく、その中から環境の変化に対応できたものが生き残る可能性が高い。

 大きい生物は環境の変化には強いが、新しい生物、突然変異が生まれにくい。そのため、ひとたび克服出来ないような環境の変化に直面してしまうと、種全体が絶滅してしまう。

 小さな生物は捕食されやすい、体重比で多くの食料を必要とする、というデメリットはあるものの、全体の数が多いほか、必要とする食糧の絶対数は少なくて済むため、種全体の生存確率は悪くない。また、冬季などは冬眠などで体温を下げる動物も多く、エネルギーの節約にも優れる。(身体が小さいと体温を保ちにくいため、冬眠の際にはより効率的に体温を下げられる。)

 

〇島の規則

 島に隔離された動物はどうなるのか。生物学的にはサイズについて、一定の規則性が存在する。(島の規則

 具体的には、

 小さなサイズの者:小さくなる

 大きなサイズの者:大きくなる

 という規則性である。

 

ゾウで言えば、島のゾウは大陸にいるゾウよりも身体が小さくなる。

これには、島という環境が関係していることが考えられる。

 

 島は一般的に捕食者の少ない環境である。一匹の肉食獣を養うためには、餌として100匹の草食獣がいなければならない。島は狭いため、例えば草の総量からして10匹分の草食獣しか養えないとすると、肉食獣は餌不足でいきていけなくなってしまう。

 島には捕食者が少ないため、ゾウは小さくなり、逆にネズミなどは巨大化する。

 また、動物のサイズについて、大きい、または小さいことには以下の様なメリットがある。

 

 ゾウが大きい理由:捕食者に襲われにくいから。

 ネズミが小さい理由:物陰などに隠れ、捕食者から見つかりにくいから。

 

したがって、ゾウは捕食者に襲われないため、(無理をしながら)最大限大きくなっている。ネズミも捕食者から隠れるため、(無理をしながら)最大限小さくなっていると言える。

 

捕食者がいなくなった途端、両者ともに中間的な大きさに留まっていくと考えられている。

 

〇標準代謝

 「食べる」とは- 食物を燃焼させ、エネルギーを取り出すこと。(ゆっくりとした酸化反応を起こし、ゆっくり酸化を起こす。)

 「呼吸」とは-身体の中に酸素を取り込み、食物を酸化させる。酸化の過程で発生するエネルギーをATPとして蓄える。

 

酸素をどれだけ使ったかはエネルギー消費量のよい目安になる。酸素1リットルあたり20.1キロジュールのATPが得られる。

 標準代謝量:時間あたり、どれだけ酸素を消費したか(代謝率)にして表す。標準代謝量→体重の3/4乗に比例する。

 即ち、体重が2倍になっても、エネルギーの消費量は1.68倍にしか増えないということを意味する。体重が100倍ならば、エネルギー消費量は32倍、1000倍になれば178倍となる。

 これは、大きな動物ほど体重の割にエネルギーを消費しないということを意味する。

 

ベルクマンの法則

 恒温動物では、同じ種類で比べると、寒い地方に棲む個体ほど身体が大きくなる。

 (=ベルクマンの法則)体重が大きいと、体重あたりの表面積が小さいため、熱が逃げる割合が少ない。

 例:熱帯地域に生息するベンガルトラとシベリアに生息するシベリアトラ。

 

インドなどの熱帯の森林に生息するベンガルトラ

シベリアトラ。ネコ科最大種。体長約2.5メートル。体重は300㎏に達する。

 

マレーグマ。全てのクマの中で最小。アジアの熱帯に生息。体重は65~80㎏

 

ホッキョクグマ。クマ科最大種。体重は800㎏に達する。



恒温動物の代謝量は変温動物の約29.3倍である。恒温動物は何もしていなくても、変温動物の30倍ものエネルギーを消費する。

 

〇食事量

 食べる量は、体重の0.7~0.8乗に比例する。体重が増えるほどには食べる量は増えない。

 ・食うもののサイズ、食われるもののサイズ

  陸上動物は自分に見合ったサイズの獲物を狙う。餌のサイズは捕食者のサイズに比例する。

  大きい動物・・自分の体重の1/10の大きさの餌を食べる。

  小さい動物・・自分の体重の1/500の大きさの餌を食べる。

 ※小さい動物は獲物を丸飲みにすることが多いため、より小さなものを狙う。

 

〇動物の成長効率

 恒温動物は食べたエネルギーのうち、77%が生命を維持(呼吸や体温の維持等)するために必要となり、21%が糞として排泄される。成長に充てることの出来るエネルギーは僅か2.5%。

 

変温動物では、49%が生命維持のために使われ、30%が排泄、21%が成長に使われる。

 

成長速度・成長効率という点では変温動物の方が圧倒的にコスパが良い。

 

〇循環器系・呼吸器系

 動物のサイズが巨大になるにつれ、巨大な循環器、呼吸器を備える必要がある。

  サイズが小さければ栄養や酸素は拡散により広がっていくため、循環器や呼吸器を備える必要はない。(極小の微生物は臓器を備えていない。)

 サイズが大きくなると、体表面からの距離が長くなるため、拡散に頼っていては酸素や栄養素の運搬に時間がかかり過ぎる。酸素の運搬、栄養素の体内濃度を均一に保つ必要があるため、循環器系が必要となる。また、膨大なサイズが必要となるため、酸素を取り込むための呼吸器系が必要。かつ呼吸器系の表面積を広げる必要がある。

 陸上動物の肺と魚類の鰓は同じ仕組み。鰓は表面積を広げ、内側には血管が走り、酸素を取り込んでいる。肺は臓器として、肺胞という形で表面積を広げ、周りには血管が走り、酸素を取り込んでいる。

 

〇動物の時間

 動物にとっての「時間」は心臓の拍動スピードや呼吸や消化・吸収のスピードなど、様々な尺度で測ることが出来る。動物の時間は、体重の1/4乗、もしくは体長の3/4乗に比例することが研究結果により分かっている。

 重い、もしくは大きい動物ほど時間はゆっくりと流れているということになる。説得力のある説明は未だなされていないが、この事実は、「時間」というものが必ずしも不変・絶対的なものではなく、動物によっても異なるという事実を示している。

 

〇感想など

 動物はそれぞれ、特有の感覚器官を持ち、地球上を生きています。獲物の熱を感知出来るヘビや超音波を利用して狩りを行うイルカ、コウモリ。逆に低周波を利用してコミュニケーションを取るクジラやゾウ。磁力を感知する鳥類等。

 本書は表題の通りサイズに注目し、サイズによる「燃費」や「時間間隔」など興味深いデータや研究結果を豊富に紹介されており、大変興味深い内容でした。

 地球上の動物がそれぞれの戦略を持って進化の過程で巨大化したり、逆に小さくなってきたと考えると面白いですね。

 人間について考えると、サイズが大きい動物であるにも関わらず、圧倒的に数が多いということを考えると、自然の中では非常に例外的な存在であると言えそうです。

 動物、生物に少しでも興味がある方にとっては非常におすすめです。