スマホ脳(アンデシュ・ハンセン著)の要約など
今回は、日本でもベストセラーになった書、スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセン著、「スマホ脳」をご紹介したいと思います。
本書は、人間の脳はデジタル社会に適応していないという前提のもと、スマホが人間の脳に及ぼす悪影響、人間を依存させてしまう要因、そしてスマホ依存への対応策について、詳細に紹介しています。
今やスマホはコミュニケーションの主要なツールとして生活に欠かせない存在であり、スマホ無しの生活は考えられませんが、スマホが出来、一般に流通するようになったのはたかだか数十年の話です。人間の脳はスマホに適応するようにつくられていませんが、他の様々な要因により、人間の脳は簡単にスマホに依存するようになってしまいます。自分自身、スクリーンタイムを確認したところ、一日平均で3時間以上もスマホを触っていることが判明して愕然としたことがあります。
普段スマホを使っている時間を減らして他の時間に有効活用したいと考えている方にとっては非常にお勧めの本です。
〇スマホ脳の内容
~人類の歴史とスマホの使用~
コミュニケーションの在り方はスマートフォンの普及により、ここ10年程度で大きく変容してきました。デジタル化が脳に及ぼす影響については、日々、知識が構築されてきています。
最新の脳科学の研究が示すものはズバリ、人間の脳はデジタル化に対応していないということです。実施、心の不調で心療内科を受診する若者はここ10で大きく増加してきています。
・睡眠・集中力への影響
・子ども、若者への影響 などを取り上げています。
世の中は便利になったのに、不安になる人、孤独になる人がどうして増えるのか。
→それは、人類を取り巻く環境と人類進化の過程のミスマッチが心に影響を及ぼしていることに起因します。
人類の歴史
→地球上に現れてから99.9%の時間を狩猟・採集して暮らしてきた。
今でも、私たちの脳は狩猟・採集時代の脳に適応している。
この事実は、睡眠や運動の重要性、直接的なコミュニケーションの大切さを考える上で
重要なカギとなっている。
~現代社会と人類進化の過程とのミスマッチ~
人類・・飢餓や感染症から身を守ることが出来るように進化を続けてきた。
進化の過程で素晴らしい免疫システムを備えるようになり、人間の身体は
カロリーを欲するようになった。
高カロリーのものを見つけたら、「すぐ口に運べ!」という指令が脳から発せ
られる。
→しかし、現代では安価な高カロリー食を簡単に手に入られる時代となって
いることから、そのミスマッチが肥満や糖尿病を招く原因となっている。
人類には、甘い果実を食べると多幸感が得られ、ドーパミンが出るという突然変異が起こった。そうした遺伝子の突然変異がヒトに、果実を見つけ次第、果実を食べる行動を起こさせ、それが生存に有利に働く。
「すぐ口に入れろ!明日にはなくなるかもしれないぞ!」という本能が現代社会で2型糖尿病を引き起こしている。
また、人類は、人類史のほとんどの時間において、狩猟・採集によって生きてきた。50~150人ほどの集団で暮らし、当時の主な死因は、飢餓、干ばつ、伝染病、他の人間に殺されることであった。
今の一般的な死因は心臓や脳の疾患、ガンなどとなっている。
また、当時、生きるためには注意力散漫で、周囲の危険を常に確認する必要があったが、今は集中力がある方がよいとされている。
<ストレスの質の変容>
人類がストレスを感じる仕組みは数十万年もの間変わらないが、数十万年の間に、人類にかかるストレスは大きく変わった。
人間がストレスを感じたとき、視床下部からストレスホルモン、コルチゾールが分泌され、脳下垂体、副腎へとつながり、「闘争か」「逃走か」反応が起こる。
コルチゾールの分泌により、心臓の拍動が上がり、消化機能などは低下し、瞳孔が開き、目の前にある危機に速やかに対処出来るように身体の準備が整う。
昔は、ライオンやヒョウなどの捕食者に遭遇したときにこの反応が起こった。
今は、生命の危機を感じる場面が少ない代わりに、ストレスの質は、長期間かつ継続的なものへと変容している。
(仕事の締め切り、高額な住宅ローン、教育費、老後の心配、、、)
ストレスの質は変わらないのに、ストレスを感じた時の反応は全く変わっていないため、ミスマッチが起こっている。
⇒現代のストレスは、「闘争か」「闘争か」いずれによっても解決できない問題が多い。
ストレスを感じる脳の部位・・・アーモンド大の大きさの原始的な脳の組織、偏桃体
偏桃体は常にスイッチがオンになっていて、どんなストレスも見逃さない、脳の火災報知器の役割を果たしている。
(プレゼンの準備が出来ていない、高いところや狭いところ、「いいね」が付いていないといったことにも反応してしまう。)
デジタル社会では、他者の評価に晒されやすいため、偏桃体が過敏になりやすい環境が整ってしまっている。
<脳の行動の原動力-ドーパミン>
ドーパミンは人間の行動の原動力で、行動を促す。
実際に、満足感を感じた際に出る脳内物質は、エンドルフィン。
ドーパミンの使命は、人間に、行動を起こさせること。
人間の脳・・・周囲の環境を理解するほど、生き延びられる可能性が高まる。
新しい情報に反応して、ドーパミンを産生する。
食料、資源が常に不足していた先祖の時代。移動すれば、食べ物が見つかる可能性が高まった。
スマホは、ドーパミンの分泌を増やすように設計されている。検索する、スマホをスクロールする度にドーパミンが放出される。
人々は、何か新しい情報が得られるかもしれない、という不確かな結果への偏愛から、スマホを手にしてしまう。
SNSの開発者は、人間の報酬システムを詳しく研究し、脳が不確かな結果を偏愛していること、どれくらいの頻度で情報を出すのが効果的なのか、よくわかっている。
SNSは、我々の脳の中にある報酬系をハッキングし、ツイッター社やフェイスブック社はそのことにより、莫大な富を築いている。
・「いいね」がついたかもしれない
・「ポーカー」をもう一度だけ、次こそは...!
以上、2つにはメカニズムが働いている。
<SNSの弊害>
・目の前にスマホがあると、相手との会話がつまらなく感じる、という心理学の研究結果がある。
・スクリーンは眠りを妨げる。
→ブルーライトは本来、晴れ渡った空からやってくるため、起きろという指令が脳から出てしまい、メラトニンの分泌を妨げ、不眠につながってしまう。
・SNSに時間を使うほど孤独になり、リアルに人と会う人ほど幸福感が増していた、という研究結果がある。
・デジタルな嫉妬
→われわれの祖先の時代は、せいぜい、20~30人との競争だった。しかし、SNSの利用により、何万人~何百万人もの人々を閲覧できる現代では、デジタルな嫉妬がしばしば生まれる。何をしても自分より賢い人、お金を持っている人、成功している人が無数に見つかる。
~デジタル社会で生き抜くために~
〇運動という対抗策
デジタル社会で生き抜くためには、運動という対抗策が有効である。
すべての知的能力は運動によって高まる。ほんの少しの運動でも効果的である。
(散歩、ヨガ、ランニング、筋トレなど)
古来より狩猟採集により生きてきた人間にとって、狩りを行う、あるいは自分が逃げることには最大限の集中が必要であった。そのため、身体を動かすことは集中力を高めることにつながる。
〇脳のミラーニューロン強化
人間の脳には、ミラーニューロンの働きにより、他人の感情を読みとる力が備わっている。デジタル化により、ミラーニューロンの働きが弱まり、他人の感情を推察する力が弱まっている。
対面で他者とコミュニケーションをとることにより、ミラーニューロンの働きが強化される。
まとめ
私たちにとって、スマホなしの生活はもはや考えられなくなっています。スマホが1日使えない状況は耐えられないでしょうし、スマホが無かった時代のことなど、思い出すことが難しくなっている程です。
しかし、デジタル化により、精神疾患が増えたり、睡眠の質が低下するなど、様々な弊害も無視できないものになってきています。その原因には、本書で何度も強調されているように、人間の脳はデジタル社会に適合するように進化してきていないことがあるのでしょう。
狩猟採集時代の脳で生きている私たちにとっては、デジタル社会は過度な情報で溢れています。スマホ・SNSの開発者は、人間の脳のメカニズムを知り尽くした上で製品を世に送り出しているため、私たちはスマホを手放すことが難しくなってしまいます。
益々デジタル化の進展、非対面のコミュニケーションが重要視されてきていますが、逆にリアルなコミュニケーションや人間の身体性を活用することで、人間らしい生活を取り戻すことが出来るのかもしれません。完全にスマホを手放すことは難しい時代ですが、意識して身体を動かす、人との会話を楽しむことなどにより、適度な距離を保つことで、活力に満ちた生活を送ることが出来るようになれるかもしれません。
この本がベストセラーになったのも、多くの人がそのような願望を抱いていることの現れではないでしょうか。