読書の森〜ビジネス、自己啓発、文学、哲学、心理学などに関する本の紹介・感想など

数年前、ベストセラー「嫌われる勇気」に出会い、読書の素晴らしさに目覚めました。ビジネス、自己啓発、文学、哲学など、様々なジャンルの本の紹介・感想などを綴っていきます。マイペースで更新していきます。皆さんの本との出会いの一助になれば幸いです。

「リア王」ウィリアムシェイクスピア(光文社古典新訳文庫)

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リア王」ウィリアムシェイクスピア光文社古典新訳文庫

 

世界文学史上最高の作家の1人と言われるシェイクスピア。「リア王」は言わずと知れたハムレット、オセロウ、マクベスと並ぶ四大悲劇の一つです。シェイクスピアの文章は何と言ってもエネルギーに満ち溢れています。読書というより、自分が劇の中にいるかのような臨場感をもたらしてくれます。是非、劇でも観てみたい作品です。

 

●主な登場人物

●リア

物語の主人公。ブリテンの王で、娘が3人いる。隠居にあたり、娘たちに国を分割して分け与えようとするが、悲劇の始まりとなる。

●ゴネリル

リアの娘(長女)。オルバニー公を婿に迎え、父、リアを称えて領土を得るが、次第に父が疎ましくなり、冷淡な仕打ちをするようになった。

●リーガン

リアの娘(次女)。コーンウォール公を婿に迎えて、姉のゴネリルと同様、領土を得るが、ゴネリルと同様、冷淡に父に接するようになる。

●コーディリア

リアの娘(三女)

最も父から愛されていたが、セレモニーでリアにおべっかを使わなかったがために反感を買い、感動されてしまう。フランス王の妃になり、ブリテンを去る。後に不遇な父を助けるため、挙兵。

●オズワルド

長女ゴネリルの従者。

●ケント伯爵

リアの忠実な家来。しかし、コーディリアの追放に反対したため、彼自身も追放されてしまう。それでもリアを敬愛し、別人に変装してまで彼に仕える道を選ぶ。

グロスター

リアの臣下。

エドガー

グロスターの長男。父に似て人を疑わない性格。異母兄弟であるエドマンドに謀られ、父から謀反の疑いをかけられてしまう。何とか逃げ延び、リアと共に過ごす。

エドマンド

グロスターの異母兄弟。謀略家で、長子エドガーの座を狙う。

●ケント

リアの側近。リアが精神をおかしくした後も、付き従う。

●道化

リアに付き従う道化師。皮肉に満ちた言葉をづけづけ言う。

●第一幕

ブリテンの王、リアは引退を前に三人の娘に領土を分けることとし、娘に対し、「自分を愛しているか」と問う。長女ゴネリルと次女リーガンは言葉巧みにおべっかを使い、領土を獲得する。実直な末娘コーディリアは、深い愛を言葉にし尽せない故、リアの問いに対して何も言えず、リアの怒りを買い、勘当されてしまいます。それを思いとどまらせようとしたリアの忠実な臣下、ケント伯も怒りを買い、追放されてしまいます。

 やがて、長女ゴネリルが住むオルバニー伯の住む館に滞在するリアに変装したケント伯が再び使えるようになります。リアは隠遁後も自身の軍隊を持つなど力を持ち続けます。ゴネリルはそのようなリアを疎ましく感じるようになります。

●第二幕

グロスター伯の息子、エドマンドは父を騙して兄エドガーを追放させます。リーガンの夫コーンウォール公エドマンドの行動に感銘を受け、臣下とします。ケント伯とゴネリルの執事オズワルドが起こした決闘騒ぎをきっかけに不信感を抱いたリアはリーガン夫妻へ詰め寄りますが、ゴネリルも合流してリアを追い込み、最小限の臣下を残し、追放してしまいます。

●第三幕

雷と稲妻を伴う嵐の中、ケントと道化を道連れに荒野をさまようリア。

「自然の造形の鋳型を、恩知らずの人間を生み出す種子を一粒残らず、いちどきにこぼして滅ぼしてしまえ」と怒り狂うリアに「どんな美人だって、鏡に向かってあかんべえをしてみせない女なんていたためしがないからな」と皮肉交じりで言う道化。やがて、「裸のトム」と名乗るエドガーに出会い、狂気を孕んだ会話を繰り広げます。そこにグロスターが現れ、ゴネリルとリーガンの命令に逆らい、リアを助け、保護するつもりであると告げます。グロスターはリア暗殺の陰謀を聞きつけたのち、フランス軍の上陸しているドーヴァーへ逃げるよう、ケントを促します。やがてグロスターが命令に背き、リアを保護しようとしていることがコーンウォールにばれ、グロスターは捕らえられ、片目をえぐられてしまいます。この時、グロスターはエドマンドが自分を騙していたことに気づき、自らの「愚行」に気づきます。

●第四幕

盲目のまま追放されたグロスター伯は、身をやつした息子、エドガーと出会う。一方、エドガーに密通しているゴネリルは、リア王への仕打ちを難詰する夫、オルバニー公と口論になる。そのうちにコーンウォールの死が告げられ、オルバニーはエドマンドの謀略を知ります。ここで、オルバニーは「グロスターよ、お前の仇は必ず取ってやるからな」と決意します。

グロスターの手を引くエドガーはドーヴァー近くの片田舎でリアに出くわし、ぼろを着たその姿に心を痛めながら、その「意味と無意味」、「狂気と理性」の入り混じる言葉に聞き入ります。

そこに、ゴネリルの執事、オズワルドが現れ、グロスターを阻止しようとするが、エドガーはこれを阻止して打ち倒します。

ケントに導かれてドーヴァーのフランス軍陣営内に到着したリアはコーディリアと再会し、娘の心情を理解し、詫びます。コーディリアは身をやつしたリアの姿を見てショックを受けると同時に、姉たちの仕打ちが許せなくなり、ブリテンへの挙兵をフランス王に進言します。

●第五幕

ブリテンVSフランスの戦争へと突入しますが、フランス王国は敗れ、コーディリアは捕虜として捕らえられてしまいます。しかし、ブリテン王国側も、長女ゴネリルと次女リーガンとの間で争いが起こり、混沌とした状況に陥ります。甲冑を被って身を隠したエドガーはエドマンドに決闘を挑み、打ち負かします。そして、最後にエドガーは自分はお前が追放した兄であると身分を明かします。そこに、オルバニー公も合流します。その折、ゴネリルがリーガンとエドマンドの仲を疑い、リーガンに毒を盛って殺し、自らも短剣で自害したという報告が入ってきます。エドマンドはコーディリアの行方を尋ねられると、既に自らが処刑の指示をしたと答えます。エドガーはすぐさま牢獄へと急ぎますが、時既に遅く、正気を失ったリアがコーディリアの亡骸を抱きしめているのでした。残されたエドガーはオルバニー公などとともに、この不幸な時代の責務を負い、国を再び立て直すことを誓うのでした。

 

●感想

この物語で救われる者はほとんどおらず、まさに「悲劇」です。リアはまさに悲劇の主人公ですが、この悲劇は自らが撒いた種によるもの、ということができます。リアは横暴であったのは事実であり、当初ゴネリルとリーガンは、そんな年老いても分を弁えないリアを疎ましく思って追放してしまいました。しかし、皮肉なことにそんなゴネリルとリーガンもまた、権力を掌握した後は人が変わったかのように横暴な性格になっていきます。猜疑心に満ち、実の姉妹さえも信じることができなくなり、最後は自滅してしまいます。しかし、こんな救いのないストーリーの中にも一抹の希望が描かれています。リアが狂乱状態に陥った後も変わらず付き従う忠実な家来、ケント。謀略家エドマンドに立ち向かうグロスター公やオルバニー公の姿です。「リア王」のストーリーは勧善懲悪の話ではなく、登場人物に感情移入できる、非常にリアルな作品となっています。また、相手を信じ、最後まで己を貫く、騎士道精神の理想を読み取ることができます。不思議な読後感に包まれる、シェイクスピアの傑作です。