脳に悪い7つの習慣(幻冬社新書)
「脳に悪い7つの習慣」(幻冬社新書)(林成之著)¥740(+税)
書店に行くと、「脳科学」に関する本をたくさん目にする様になりました。脳のパフォーマンスを高める事がビジネスの分野などでもプラスになるということが分かってきたことの証でしょう。
では、「脳のパフォーマンスを高めるにはどうすればいいか?」という疑問に対して、本書において、著者の林さんは、長年救命救急の現場で「脳をフルに働かせること」をチームや自己に課し、多くの患者を救ってきた経験から脳のパフォーマンスを上げる方法を提示しています。
タイトルの通り、「脳に悪い習慣」が7つ、順を追って解説されています。脳が「理解し、判断し、記憶する」プロセスについての説明もあり、脳の仕組みから、脳にとって良いこと、悪いことが見えてくる構成になっています。
●脳の持つ本能
いきなり「脳に悪い習慣」の話に入る前に、「脳神経細胞が持つ本能」についての説明があります。
その本能とは「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」の3つです。
家庭や学校、文化、様々な社会システムは、この脳神経細胞の持つ本能に基づいてつくられてきたといいます。この、「脳神経細胞が持つ本能」を磨くことが本書でいうゴールになります。
また、脳神経細胞が持つ2段階目の本能として、「自己保存」と「統一・一貫性」の2つがあります。
いずれも、「自分を守る」、「正誤判断をする」、「話の筋道を通す」等の意味で重要なものですが、本書では、多少厄介な代物として紹介されています。
これらの本能が過剰反応してしまっている例として、「自分と異なる意見の人のことを嫌いになってしまうことが挙げられています。
脳は自らの意見と異なるものを「統一・一貫性」にはずれるために拒否し、また、「自己保存」が働くことによって自分を守ろうとするため、相手の意見を論破しようとさえすることがあります。(27頁)
こうした、脳の持つ癖を意識した上で、意識的にコントロールし、異なる他者の意見も受け入れるということも、時には必要です。
本書では、脳に悪い習慣として、
①「興味がない」と物事を避けることが多い
②「嫌だ」「疲れた」とグチを言う
③言われたことをコツコツやる
④常に効率を考えている
⑤やりたくないのに我慢して勉強する
⑥スポーツや絵などの趣味がない
⑦めったに人をほめない
の7つを挙げています。
●脳に悪い習慣
以下、7つの習慣について、簡単に要約します。
①「興味がない」と物事を避けることが多い
著者によると、「興味を持つこと」は脳を活かすためのベースになるもの。
脳のパフォーマンスを上げるには、興味・関心の幅を広げ、何事にも明るく前向きな気持ちで取り組むことが大切。
②「嫌だ」「疲れた」とグチを言う
マイナスの言葉を発すると、脳がその言葉に反応し、マイナスのレッテルを貼ってしまう。すると、脳のパフォーマンスは下がる。
③言われたことをコツコツやる
→言われたことをやるだけでは、自己報酬系群は働かない。「主体性」が大切。それから、パフォーマンスを最大限に発揮するためには、「ゴール」を意識せず、一気に駆け抜けるという意識が重要。
④常に効率を考えている。
「独創性」を生むためには、繰り返し考え、要所要所で整理しておくことが大切。本を読む際にも、「何冊読むか」ではなく、「良書を繰り返し読む」という意識に重点を置くべき。また、日記やブログで自分の考えを整理することは脳にもよい。
⑤やりたくないのに我慢して勉強する
脳が記憶するプロセスは、①まずA10神経群で感情のレッテルを貼る、②前頭前野で理解③自己報酬系群を介して、海馬を包含する「ダイナミックセンターコア」において思考し、記憶が生まれる。
この記憶のプロセスを考えると、「面白くない」「嫌い」「役に立たない」と考えることは、記憶することを難しくする。
我慢するのではなく、興味を持ち、好きになり、おもしろいと思って取り組むこと、主体的に取り組むことが記憶する上で重要になる。
⑥スポーツや絵などの趣味がない
人間の脳には「空間認知能」が備わっている。これは空間の中で位置や形を認識する能力で、物を見てそれを描く、本を読んでイメージを膨らませる、運動するなど、人間が思考するとき、身体を動かす際などに大きな役割を担っている。
運動(特にキャッチボール)やスケッチといった趣味は空間認知能を鍛えるのに効果的。よくしゃべることも空間認知能を鍛えるのに役立つ。
⑦めったに人をほめない
人が相手に気持ちを伝えるとき、相手の神経細胞群に「同期発火を起こす」という意識が大切。
人が悲しい情報を誰かから聞いた場合、相手の話の内容、身振り手振りなどから、脳神経細胞は相手と同じように同期発火を起こし、同じく悲しい気持ちになる。
このことから、
自分の言いたいことを本当に伝えたい時には、淡々とクールに伝えるのではなく、喜怒哀楽の感情を込めて伝える必要がある。(身振りや表情なども交えて)
また、嬉しそうに人をほめることは同期発火を起こしやすくし、人とのコミュニケーションを円滑にし、お互いに思考を深めることにつながる。
感想
本書を読んで愕然としたのですが、自分は今まで脳にNGな習慣の7つのうち、5つを習慣にしていました。社会は複雑になり、人間関係も複雑になってきていますが、人間の脳は狩猟最終時代から変わっていません。そのことが大きなミスマッチを引き起こしていると思います。
「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」という脳神経細胞の持つ本能をいかに磨いていくか、まさに今後の社会で生きていく上での鍵となっていきそうです。
中でも、「何にでも興味を抱くこと」は重要だと思います。多くの哲学者が主張してきたことは、実は脳科学的にも正しかったと言えそうです。バートランド・ラッセルは「幸福論」において、「私心のない興味を持つこと」が重要であると述べています。ニーチェは人間の至るべき精神について、ラクダから獅子へ、獅子から赤子へという三段階を主張しました。赤子は現状を肯定し、あらゆるものに興味を示します。それこそ、ニーチェが理想とした姿だったのでしょう。
話が逸れましたが、本書は脳の仕組みを理解するのに有益であるとともに、どうやったら脳のパフォーマンスを上げることができるのか、と言う点について惜しみなく書かれており、非常に役立つ本です。
自分の今の習慣はNGなのかどうか、事あるごとに自己点検する意味でも繰り返し読みたい本です。