「世界一わかりやすい教養としての哲学講義」小川仁志 監修(宝島社)の要約、感想など①
世界一わかりやすい教養としての哲学講義 小川仁志 監修
(宝島社)¥1400(+税)
本書の特徴
「哲学は難しい。何からどう学べば良いかわからない。」そういった声に応えてくれるのが本書だと思います。
哲学者、小川仁志さんの監修で古代ギリシア〜現代までの主要哲学者の思想についてわかりやすく学べる本書は非常に魅力的です。
哲学入門に関する本は多々ありますが、字面が多くてわかりづらかったり、何巻にも分かれていたりと、あまり親切でない本も見受けられます。本書はイラストも多くてスラスラ読み進められますし、個々の哲学者の思想の核となる部分が全て収められている良書です!
倫理の教科書とかって、堅苦しくて読んでいてもあまり面白くないですよね…
肩の力を抜いて学べるものこそ良書だと思います。
何分割かにして、要約、感想を述べたいと思います。
古代ギリシアの哲学者(ソクラテス、プラトン、アリストテレス)
ソクラテスは言わずと知れた哲学の父ですね。
「知らないくせに知っていると思っている人よりも、自分のように、自分が知らないということを自覚している人のほうが賢いのではないか」と考え、「無知の知」と名づけ、生涯にわたって真理の探究をしたソクラテス。ユニークなのは、「魂(プシュケー)」への配慮という考え方です。
ソクラテスが生きた時代のアテナイの人々は、現代と同じように、富や名声に関心を抱いていました。しかし、ソクラテスはただ、富や名誉をばかりを追い求める態度に対して、「魂(プシュケー)への配慮が足りない」と批判しました。これはどういう意味でしょうか?
ソクラテスは、いくら恵まれた資産や環境を持っていても、それが正しく使わなければ幸せになれないと考えました。具体的には自分が持っているものを他者に役立てる事こそが、ソクラテスの考えた「魂への配慮」です。
以降、哲学は弟子のプラトン、プラトンの弟子のアリストテレスと今日まで連綿と歴史を紡いでいくことになりました。
プラトンは普遍的真理を求めて探究を続け、「イデア」という概念を生み出します。「イデア」は我々が生きている現実世界とは異なる、完全で永遠不滅の世界を指します。一見突拍子もない話のように思えるのですが、非常に面白くて魅力的な概念でもあります。
プラトンの言いたいことはザックリ言うとこうです。
「我々は物事を感覚でしか捉えていない。真実はイデアにある。心の目で真実を見よ。イデアの世界を見つめよ。」
何にでも理想の姿がある。それを追い求める事が大切だと言われると、非常に納得のいく話です。
アリストテレスは、プラトンの弟子で、プラトンが主宰するアカデメイアに学び、アレクサンドロス大王の家庭教師にもなりました。
アカデメイアはアカデミーの語源にもなっていますね。
アリストテレスは師のプラトンに比べて現実主義の思想で、プラトンが本質は「イデア」にあるとしたのに対して、本質は現実の中にあるとしています。
アリストテレスは物事の存在を4つの原因に分類しています。(質料因、形相因、目的因、作用因)
イスを例にすると、以下の通りになります。
質料因(物事の材料)
イスの材料は木材。
形相因(物事の本質)
イスは人が座るための道具。
目的因(物事の存在目的)
作業をするために必要。
作用因(物事の原因)
職人が作った。
ここまで分類する必要はあるのか(笑)と思うほどアリストテレスは物事の存在を分割して考えたのです。
また、アリストテレスは幸福についても語っています。彼は幸福を「物事が持つ本来の能力を発揮する事」であると説きました。それはソクラテス以降大切にされてきた、「徳」のある生き方に他なりません。
また、徳についても
・知性的徳
→物事を判断する知恵、理解する知恵
・倫理的徳
→勇気、節制、友愛、正義など
に分類し、このうち倫理的徳が幸福になるためには特に大切であり、これを身につけるには、「中庸」が最も大切であると説きます。
勇気は度が過ぎると無謀になり、少な過ぎると臆病になります。その「中庸」の徳を身につける事が幸福につながると説きました。
また、こうした知性的徳、倫理的徳を人々がそなえた状態を「全体的正義」と名づけ、理想としたのです。
以上の3人は古代ギリシアの知の巨人と言うべき存在ですが、それぞれ思想は異なっています。特に、師弟関係であったプラトンとアリストテレスの思想が大きく異なっているところは非常に面白いところです。
この思想の違いを表した絵画も描かれていますね。ルネサンス絵画の巨匠、ラファエロが描いた「アテナイの学堂」です。ピタゴラス、ユークリッドなど古代の賢人たちが集う中、絵の中心にプラトンとアリストテレスが描かれています。プラトンは指を天に向けて突き出し、アリストテレスはそれに反論するかのように手を正面に向かって突き出しています。
「イデア」を指し、本質は「イデアの中にあるのだ」と言わんばかりのプラトンに、「いや、物事の本質は現実世界にこそあるのです。」と応えているようなアリストテレス。
各々の思想の違いを表現した非常にドラマチックで面白い作品です。
イギリス経験論と大陸合理論、社会契約論
古代ギリシアから長く時が経ち、キリスト教神学に隷従する形でなんとか生き延びてきた哲学が再び息を吹き返すのが16世紀です。
キリスト教会の権威も徐々に衰えていく中、フランシス・ベーコン、デカルトなどの哲学者、ホッブズ、ロック、ルソーといった政治思想家が続々と現れます。
ベーコンは16世紀の哲学者でイギリス経験論の祖となります。ベーコンは自然法則を支配する原因を導き出し、人間が自然を支配する力を得る事が大切だと説きました。また、帰納法という方法論を生み出した事でも有名です。
帰納法とは、実験や観察によって導き出された経験的な事実から、共通した法則を導き出すという考え方です。(個々→全体法則へ。)
たとえば、あらゆるカラスを観察して、黒いという結果が得られれば、カラスは黒いと結論付けます。
しかし、正しく観察しようと思っても、人間の判断にはしばしば先入観、バイアスなどが働き、しばしば正確な結果が得られないこともあります。ベーコンはその点についても、「四つのイドラ」(イドラ=排除すべき偏見)という形で警鐘を鳴らしています。
●四つのイドラ
=人間という種族の特性に由来する偏見。
例えば視覚や聴覚などの五感による情報、心理的なバイアスなど。
(太陽が地球の周りを回っている=天動説も一種の錯覚によるもの。)
=個人の経験、趣味趣向、性格などに由来する偏見。
(洞窟の中にいるように視野が狭まる。)
=不完全な言葉に由来。
噂話、真偽不明の情報など。
=権威や伝統に由来。
既存の学説、専門家の発言など。
ベーコンはこれらの偏見を排除して初めて正確な観察ができると説きました。
ベーコンからすれば、専門家の意見を聞いただけで正しいと思ってはいけない。噂話などに惑わされてはいけない。実験と観察によらなければ正しい結論は導き出せないということになりますね。
ベーコンは「人間は経験により正しい知識を得ていく」という経験論の祖となり、ロックもまた、この立場の人物です。ロックは人間を「タブラ・ラサ(=白紙)」と表現し、さまざまな経験が書き込まれることで、観念を形成していくとしました。
一方デカルトは、人間が持つ観念は生まれつきのものである(大陸合理論)として、ロックと論争を繰り広げました。
この、大陸合理論は後の時代に登場する西洋哲学の巨人、カントによって、一応の決着を見ることになります。
また、この時代は、今まで王権は神から与えられた(王権神授説)という考え方が一般的だった西洋で、国家と人民との関係(社会契約論)を唱える思想家が登場してきます。
ホッブズやロック、ルソーです。
それぞれ、前提としている人間観が違いますが、それぞれ全く新しい国家と人民との関係性を解き明かしていきました。これらは後の市民革命の原動力となり、現代民主主義の萌芽となりました。
感想など
数年前、哲学を学んでみたい!と思い始めた私は書店に行って、カントの「純粋理性批判」を立ち読みし始めました。そして、読み始めて間もなく、本を閉じました。
書いている内容が一行たりとも理解できなかったからです!
哲学書は通常、これまでの歴史、議論を前提として書かれており、そこを学ばない限り、書物の中で一体何の議論をしているのかすら分からないようになっています。ましてや最難書とされる「純粋理性批判」にいきなり手を伸ばすなど、明らかに愚かな行為でした。。
(当然、今読んでも理解できるなどとは到底思えませんが。。)
そこで、哲学の入門書を色々と探し、偶然本書に出会ったのですが、数多ある入門書の中でも
以下の点でかなりの良書だと思いました。
①とにかくわかりやすい。(タイトルの世界一わかりやすいは伊達ではない。)
②思想の核となる部分が数ページに簡潔に収まっている。
③図があって視覚的にわかりやすい。
④イラストがかわいい。
ワクワクしながら読み進められるので、多くの人におすすめしたい本です。続きは次回とします!