「老人と海」アーネスト・ヘミングウェイ
●概要
「さあ、殺せ、どっちがどっちを殺そうとかまうこたない」
来る日も来る日も小舟に乗り、漁をする老漁師サンチャゴ。残りわずかな餌に巨大なカジキマグロが食らいつく。4日にも及ぶ手に汗握る死闘。老人は辛うじて死闘に勝利するが、帰路、舟にくくりつけたカジキマグロはどんどんサメに喰われていく…。
●本書の魅力
ノーベル文学賞を受賞したアメリカの文豪、ヘミングウェイによる短編小説「老人と海」。本書の魅力はやはり、大魚を相手に雄々しくカジキマグロと闘う老人の姿でしょう。キューバの老漁師サンチャゴが外洋へと繰り出し、巨大なカジキマグロと闘うシーンが徹底した外面描写で描かれます。人間の強さ、自然の厳粛さが感じられる作品です。
●老人と少年
サンチャゴのことを慕ってやまない少年、マノーリンとの関係性も本書の魅力の一つです。マノーリンは長らく漁に同行していましたが、不漁が続いていたため、サンチャゴは一人で遠い外洋へと繰り出すことを決意します。照りつける日差し、手強い魚、苦戦を強いられる最中、サンチャゴは「あの子が乗っていてくれたらなぁ。」と何度も呟きます。サンチャゴがマノーリンを子どもではなく、信頼できるパートナーとして見ていることが分かる良いシーンです。
●見事な情景描写
燦々と照りつける日差し、太陽の光を反射して海中で光るシイラ、燃えるようなカリブ海の夕陽…見事な情景描写により、読者にはキューバの海の情景がありありと浮かんできます。片手で釣ったマグロを捌いて口に頬張りながら、縄を身体全身に巻き付け、力いっぱいに縄を引くサンチャゴ。まさに男VS大自然。なんともハードボイルド。。
●感想
ストーリーだけを追えば、老人が巨大なカジキと格闘して勝利したが、帰路、サメに全て喰われてしまうという単純なものです。しかし、この小説の素晴らしいところはストーリーではなく、人間の持つ勇気と自然の厳しさを同時に描いているところでしょう。サンチャゴは、カジキマグロとの戦闘中、呟きます。「港に戻ったところで、お前を食うに値する人間などいるだろうか?いや、いないね。」老人の自然への畏敬の念が感じられて大好きな台詞です。自然の恐ろしさと美しさ、人間本来の強さ、そんな事を教えてくれる名著だと思います。