読書の森〜ビジネス、自己啓発、文学、哲学、心理学などに関する本の紹介・感想など

数年前、ベストセラー「嫌われる勇気」に出会い、読書の素晴らしさに目覚めました。ビジネス、自己啓発、文学、哲学など、様々なジャンルの本の紹介・感想などを綴っていきます。マイペースで更新していきます。皆さんの本との出会いの一助になれば幸いです。

ソクラテスの弁明 プラトン著(角川選書)

 

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シリーズ世界の思想 「ソクラテスの弁明」(角川選書)岸見一郎訳 

 

●概要

哲学の古典中の古典、プラトンが著した「ソクラテスの弁明」。本書では当時の古代ギリシアで実際に起こったソクラテスについての裁判における、ソクラテスの弁明の内容が克明に著されています。記録としてだけではなく文学作品としても一級品で、プラトンの手により、2500年前の法定問答が鮮やかに甦っています。

ソクラテスの弁明」の訳は既に沢山出ていますが、本書はアドラー心理学の「嫌われる勇気」でお馴染みの岸見一郎先生による訳・解説で、時代背景から作品解説が非常に丁寧で分かりやすいです。ソクラテスの一言一言から溢れるエネルギーを感じられる重厚な文体で、読みながらワクワクしてしまう事間違いなしです。

 

●背景

当時、アテナイを中心に、ソフィストと呼ばれる弁舌家が活躍していました。彼らは裕福な家庭のご子息相手に相手を論破する弁論術を教えていました。当時は弁論によって民衆を動かすのが政治家や知識人の役割。ソフィストたちは強弁を売り込み、名声と報酬を得ていたそうです。しかし、ソクラテスには、彼らは話す内容ではなく。技術論に終始し、名声やお金のために知者であることを装っている人たちに見えたようです。

ソクラテスは、そうしたソフィストたちを始め、政治家などに「勇気とは何か」「知恵とは何か」といった議論を持ちかけていきました。質問に答えられなくなり、公衆の面前で恥をかかされた大御所たちはソクラテスを憎み、ついには「若者を堕落させ、信じるべき神を信じていない」という事で裁判まで起こされてしまいました。実際にあったその時の裁判の様子を弟子のプラトンが書き記したのが本書です。

 

●ポイント

裁判の流れは原告と被告同士が市民の前で弁論→多数決で有罪か無罪かを決める→量刑を決めるための弁論→判決で1日で決審するのが普通でした。ソクラテスは弁明の中で、今回の起訴内容が不当であること、ソフィストたちに議論を持ちかけ、知の吟味をすることが自分が神から与えられた役割であることを述べていきます。それによって捕らえられ、死を迫られたとしても、自分は正義と真理を取ると断言します。そもそも、アポロンの信託「ソクラテスより賢いものはいない」という内容が真実かどうかを確かめるために「知の吟味」を始めたソクラテス

ソフィストたちとの議論を通じて、「自分は無知だが、無知であることを自覚している分、彼等よりは賢い」との結論に至り、信託の意味を理解します。有名な無知の知です。無知を自覚した上でどこまでも真実を追い求める姿勢は正に哲学の源流です。

 

●感想

どのような思想を持っていても、実際に死刑が待っていると思うと、普通は命乞いをするものです。しかし、ソクラテスは死を前にしても自らの信念を曲げませんでした。その事が原因で市民(裁判員)の反感をくらい、実際に死刑判決を受けてしまいましたが…しかし、この弁明は当時のプラトン青年を始め、多くの人物に衝撃を与えたことは間違いないでしょう。

文章からほとばしるエネルギー。まさにその場でソクラテスの演説を聞いているかのような臨場感を与えてくれるのはプラトン驚異の文章力です。哲学の原点として何度も読み返したい書です。獄中での弟子との対話を著した「クリトン」もいつかは読んでみたいところです。