「人を動かす」の要約・内容など(D.カーネギー著)
「人を動かす」(D.カーネギー)
今回は、人間関係の古典というべき、D.カーネギーの「人を動かす」を紹介します。
D.カーネギーはミズーリ州の農家の生まれでアメリカにおける成人教育、人間関係研究の先駆者です。ヨーロッパ各地に出張して講演会を開き、会社の顧問としての社員教育の生徒は15000人以上にも及びます。
人間関係について指導を行っていくにあたり、適当なテキストブックがなかったことから、カーネギーは新聞や心理学書、過去の裁判記録、偉人の談話や伝記などを徹底的に調べ上げました。その結実として出来たのが、この「人を動かす」です。
会社員は勿論、主婦や学生にとっても役立つ人間関係において大切な原則が説かれています。具体例がとにかく豊富で、内容も多岐にわたります。偉人だけではなく、サラリーマンの成功例まで記載されております。ぜひ多くの人に手にとっていただきたい書です。
【特徴】
古今東西の教訓、歴史的事実、偉人、一般の人々の行動、非常に豊富な例を用いて人間関係において大切な原則を説いているのが本書です。引用だけでなく、カーネギー自身も踏まえて書かれているのが本書の特徴でもあります。
【内容】
内容を簡単にご紹介したいと思います。
本書は大きく4つのパートに分かれています。
「人を動かす三原則」、「人に好かれる六原則」、「人を説得する十原則」「人を変える9原則」の4つです。
いくつかの原則をご紹介します。
【人を動かす三原則】
①盗人にも五分の理を認める
→人に批判されて納得する人などそうはいない。皆、賞賛を求めている。
例として、凶悪殺人犯のクローレーが紹介されています。
1931年、ニューヨークの凶悪殺人犯、クローレーは何人もの人を殺しておきながら、電気椅子に座る際、「自分の身を守っただけのことで、こんな目に合わされるんだ」と語ったといいます。つまり、クローレーは自分が悪いとは微塵も思っていなかったのです。
凶悪犯のクローレーですら自分の非を認めないのですから、善良な市民については言うまでもありません。この事実は、人に非難を浴びせて反省させることは非常に困難であることを物語っています。
カーネギーは次のように語っています。
「他人のあら探しは何の役にも立たない。相手はすぐさま防御態勢を敷いて何とか自分を正当化しようとするだろう。」
次のような言葉も紹介されています。
「我々は他者からの賞賛を強く望んでいる。そしてそれと同じ強さで他人からの非難を恐れる。」
併せて以下の様なエピソードや言葉が紹介されています。
・T.ルーズベルトとタフトの仲違い
T.ルーズベルトが1908年、大統領の地位をタフトに譲ったとき、タフトの政策は保守的だと世間から批判されました。結果、選挙で共和党が大敗し、ルーズベルトはタフトを責めましたが、タフトは次のように述べたといいます。
「どう考えても、ああする以外に方法はなかった。」
・リンカーンの座右の銘
「人を裁くな。人の裁きをうけるのが嫌なら」
・英の文学者、ドクタージョンソンの言葉
「神様でさえ、人を裁くにはその人の死後までお待ちになる。まして、我々がそれまで待てないはずがない。」
②重要感を持たせる
人を動かす秘訣は、この世に一つしかない、とカーネギーは言います。それは、
「自ら動きたくなる気持ちを起こさせること。」です。そのためには、他者の承認欲求を満たしてあげることが欠かせません。カーネギーによれば、人から認められたい、自己に対する重要感に関する感情は、ディケンズのような小説家から、ディリンジャーの様な犯罪者に至るまで等しくあるものであるといいます。
レ・ミゼラブルの著者、ユーゴーはパリを自分に因んだ名前に変更させようという望みを抱いていたといいます。シェイクスピアは、自分の名に箔をつけるために金を積んで家紋を手に入れたといいます。
併せて以下のような言葉も紹介されております。
・W.ジェイムス(アメリカの哲学者)の言葉
人間の持つ性質のうちで最も強いものは、他人に認められることを渇望する気持ちである。
・チャールズ・シュワッブ(アメリカの実業家)の言葉
「私には人の熱意を呼び起こす能力がある。これが、私にとっては何物にも代えがたい宝だと思う。他人の長所を伸ばすためにはほめること、励ますことが何よりの方法だ。私は決して人を非難しない。気に入ったことがあれば、惜しみなく賛辞を与える。」
アンドリュー・カーネギー(アメリカの鉄鋼王)
「おのれより賢明な人物を身辺に集める方法を心得し者、ここに眠る」
エマーソン(アメリカの思想家)
「どんな人間でも、何らかの点で私よりも優れている。私の学ぶべきものを持っているという点で」
率直、誠実な評価、惜しみない賛辞が人間関係構築のために非常に重要であるということです。このことは時代が変わっても、国境が変わっても変わらないでしょう。
③人の立場に身をおく
人を説得して何かをやらせようと思えば、口を開く前にまず自分に尋ねてみることだーどうすればそうしたくなる気持ちを相手に起こさせることができるか?
カーネギー曰く、ここで言う、人の立場に身をおく、とはwin-winの関係を模索することであるといいます。
・ヘンリーフォードの言葉
「成功に秘訣というものがあるとすれば、それは他人の立場を理解し、自分の立場と同時に他人の立場からも物事を見ることのできる能力である。」
次に、「人に好かれる六原則」のうち、いくつかご紹介します。
【人に好かれる六原則】
〇誠実な関心を寄せる
相手の関心を惹こうとするよりも、相手に純粋な関心を寄せるほうがあるかに多くの知己が得られる。
面白いことに、カーネギーは、誠実な関心をいつも向けてくれる生き物として、犬を挙げています。犬はいつも飼い主が近づくと尻尾を大きく振って好意を示してくれます。
何か魂胆があってのことではありません。カーネギー曰く、犬はまさに人に好かれる方法を本能的に知っている「達人」なのです。
また、以下のような言葉も併せて紹介されています。
・アドラーの言葉(心理学者)
「他人のことに関心を持たない人は苦難の道を歩まなければならず、他人に対しても大きな迷惑をかける。人間のあらゆる失敗はそういう人たちの間から生まれる。」
・バブリアス・シラスの言葉(ローマの詩人)
「我々は、自分に関心を寄せてくれる人々に関心を寄せる。」
〇聞き手に回る
また、会話において、聞き手に回ることの重要性もカーネギーは指摘しています。
相手が喜んで答えるような質問をすることだ。相手自身のことや、得意にしていることを話させるように仕向けるのだ。
〇議論を避ける
カーネギーは「議論に勝つ最善の方法は議論を避けることである」と述べています。
議論でやっつけた時は気持ちよくなっても、やっつけられた方は自尊心を傷つけられ、憤慨し、復讐心を募らせるようになります。
ベンジャミンフランクリンの言葉も紹介されています。
・ベンジャミン・フランクリンの言葉
「議論したり反駁したりしているうちは相手に勝つようなこともあるだろう。しかし、それはむなしい勝利だ。相手の好意は絶対に勝ち得ないのだから。」
【感想など】
世界各国に翻訳され、大ベストセラーとなっている本書は時代が経過しても色あせない名著です。そればかりか、対人関係が多くの人にとって悩みの種となっている現代においては重要性がより増していると言えるかもしれません。
本書を読んでみると、古今東西の成功事例や失敗事例など、事例の多さにまず驚きます。この徹底したリサーチこそが、本書の内容に説得力をもたらしています。
今、世間では論破術といったものが流行っていますが、カーネギーがもし現代に生きていれば、「ナンセンス」であるとして一刀両断したに違いありません。本書によれば、論破する=相手の自尊心を傷つけ、復讐心を抱かせる行為であり、決してwin-winとはならないからです。
個人的には自己啓発書を100冊読むよりもこの「人を動かす」を読むことの方が遥かに価値があると思います。あらゆる年代の方にお勧めしたい一冊です。