日本列島100万年史(講談社ブルーバックス)の内容・感想など
皆さんは、日本列島の歴史についてご存じでしょうか。
日本列島の複雑な地形には、驚くべき地形変動の歴史が刻まれています。
講談社ブルーバックスから出ている、「日本列島100万年史」では、日本列島の形成の歴史から、各地方の地形の形成史まで、地学についての知識がない方でも分かりやすく解説されています。
この日本列島の大地にどのような変動が起こったのかを理解することは、これから日本列島に何が起こるのかを予測することにつながります。災害への備えという意味でも、地学的な基礎知識を身に着けておくことには大きな意味があると思います。
【どんな人におすすめ?】
日本の地形の成り立ち、自分が住んでいる地域の地形がどうなっているのかを知りたい、地震や火山のメカニズムを知りたい方にはおすすめです。
【ポイント】
本書の中で興味深かった点をいくつか紹介します。
〇日本列島の成り立ち
日本列島は数千万年前、大陸の一部であり、マントルの対流により、大陸から引き裂かれる形で分裂しました。長い年月をかけて南西方向へと移動し、大陸との間には「縁海」となり、日本海となりました。
日本列島は南にフィリピン海プレート、東方向に太平洋プレート、北方向に北米プレート、ユーラシアプレート、四つのプレートに囲まれている有数の地帯となります。
日本海溝や南海トラフが周辺にあり、有数の火山地帯、地震地帯になっております。
特に、太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込む地帯では、深さ100㎞地帯に火山フロントが形成されます。この火山フロントの列=伊豆バーといいます。
この伊豆バーがフィリピン海プレートの動きによって北部に移動していき、やがて日本列島に衝突しました。そして、伊豆半島が形成されます。
現在も日本列島はフィリピン海プレートに押され続けており、丹沢山地は500万年前、御坂山地は900万年前にできました。
〇火山と火山フロントについて
火山の噴火は、地下深くのマグマ溜まりがいっぱいになっているときに、地殻に加わる力が変化して、地表に噴き出すというものです。
マグマの成因
①プレートの沈み込み地帯
マグマはマントルを構成するかんらん岩が溶けたものです。岩石は温度が高いほど溶けやすいですが、密度が低いほど溶けにくくなります。
マグマができるためには、融点を下げる水が必要となります。この水は多量の水を含んだ海洋プレートが供給します。海洋プレートが沈み込んでいく過程で水が絞り出され、結果、地下100㎞の地点あたりでマグマができやすくなります。
(プレート境界でマグマのできる仕組み)
マントルの湧昇流地点はホットスポットと呼ばれ、ベルトコンベアーのように火山をつくっていきます。北朝鮮、中国国境付近にある、白頭山はこの火山です。ハワイ~ミッドウェー~アリューシャン列島~カムチャツカ半島にかけてできている火山帯は天皇海山列と呼ばれています。
〇山脈の形成について
山脈の形成にもプレートの運動が関わっています。海洋プレートが海洋プレートあるいは大陸プレートの下に沈み込む場所では、海洋プレートの下部にある岩盤や土砂などが
溜まっていき、付加体が形成されます。
この付加体が成長していくと、やがて山脈へと成長します。このプレート運動の影響で形成された山脈にアンデス山脈やロッキー山脈があります。
〇気候変動の歴史
地球史上の年代区分で言うと、現代は260万年前から始まった第四紀にあたります。
第四紀では、およそ10万年毎に温暖な時期と氷期が訪れており、現在は寒冷な時期にあたります。周期で行くと、これから氷期へと向かっていくことが予想されているようです。
直近の氷期は約7万年前から始まり、2万年前に最盛期を迎えました。北米、ヨーロッパ、スカンジナビア半島では200m以上の氷床ができ、海水面は現在より120mも低かったといいます。
氷期になると海水面が下がる理由は以下の通りです。
①海から蒸発した海水が水蒸気になる。
②陸地に雪を降らせる。
③気温が寒冷のため、夏でも溶けない万年雪となる。
④万年雪が冬に凍り、氷床へと成長する。
海水が海へと戻らないため、徐々に海水面が低下していきます。
2万年前の氷期では、東京湾、大阪湾、瀬戸内海は干上がったといいます。
そして、驚くべきことに、干上がった瀬戸内海にはナウマンゾウが闊歩していたといいます。証拠として、瀬戸内海からはナウマンゾウの化石がたくさん発見されています。
この氷期で大陸と日本列島がつながったことは、その後の動物分布にも影響を及ぼしました。当時、北海道はユーラシア大陸とサハリン経由でつながっていました。
しかし、津軽海峡は水深が深かったために北海道と本州は完全には陸続きにならず、大陸から渡ってきた哺乳動物は本州までは南下することができませんでした。
このことが影響し、本州と北海道とで動物の分布は異なることになりました。
この北海道と本州との分布の違いをブラキストン線といいます。
現在でも北海道にはヒグマ、ナキウサギなど、本州には生息していない動物がいます。
また、氷期では日本アルプスには大規模な氷河地形が形成されました。現在でも北アルプスの涸沢カール、中央アルプスの千畳敷カールなど大規模な氷河地形を見ることができます。
そして、現在から7000~5000年前は直近で平均気温が今よりも2~3℃高かったといいます。房総半島の先端にはサンゴ礁があり、内陸には海水が侵入し、今の埼玉県の北部あたりまで浅い海が広がっていたといいます。
〇東北地方
東北地方は東側に1200m級の阿武隈高地、西側に会津磐梯山、安達太良山、蔵王山、岩手山、八幡平などの1700~2000mの山岳が連なっています。西側に火山が多いのは、太平洋プレートが日本列島に向かって直角に沈み込んでちょうどマグマがたくさんできる地域であるためです。
また、リアス式海岸も特徴的です。リアス式海岸にも気温の変更が関係しています。
氷期に川に削られてできた狭い谷が温暖になり、海水面が上昇したことによって溺れ谷となったものです。リアス式海岸という名称は、深い入り江が特徴のスペインのリアスバハス海岸に由来しています。
〇関東地方
関東平野は日本最大の平野で、その大きさは北海道の石狩平野を遥かに凌ぎます。
また、驚くべきことですが、関東地方では中央部では沈降、周辺部は隆起を続けています。中央部で沈降しているにも関わらず、海に沈まないのは、関東山地などから供給される岩や土砂が堆積し続けているためです。
関東平野の地下には3000m以上の厚さの堆積物が堆積しているといいます。
また、関東地方にある富士山はプレート境界に位置している活火山で、世界的にも類を見ないほど珍しい地点に位置しています。
300年程前に発生した宝永噴火では、御殿場で噴出物が2mも堆積し、火山灰が数か月も空を覆い続けた影響により、江戸では真昼でも提灯をつけなければならないほど暗くなってしまったそうです。宝永地震の49日前には南海トラフで大きな地震がありました。南海トラフ地震は2030~2040年に発生することが予想されていますが、この地震と富士山噴火が連動して起こる可能性が専門家によって指摘されています。今後、警戒が必要です。
富士山(3776m)
〇九州地方
九州地方は火山の土地と言っても良いほど火山活動が活発な地域です。九州地方では巨大な火砕流によってつくられた地形が各所に見られます。最近噴火した阿蘇山には街がスッポリ入ってしまうほどの巨大なカルデラ地形があります。
また、シラスと呼ばれる軽石やガラス質の砂が堆積した地層が九州全土を厚く埋めています。
桜島や阿蘇山、霧島連山など活動が活発な火山がたくさんあり、今後も噴火活動への警戒が必要です。
阿蘇山中岳噴火口
【感想など】
日本列島にはどのような歴史が刻まれているのか、どんな地理的特性があるのかについて知ることは、災害などから身を守るうえでもとても大切なことであると思います。
日本列島にはどのような特徴があるのかという点は、今まで考えもしなかったことですが、深い海溝に囲まれ、縁海があり、火山が非常に多いという世界的に見ても際立った特徴を持つ島国であるということを認識しました。
大規模な地震が定期的に起こり、火山の噴火も多いため、私たちは非常に厳しい自然環境の中で暮らしているということが言えると思います。
しかし、私たちは自然からの恩恵を多いに享受しているという点も見逃せません。例えば、日本が世界で有数の温泉国なのは、火山のおかげです。また、噴火はおそろしいものですが、平穏なうちは、私たちは火山の持つ荒々しくも美しい景観を楽しむことができます。富士山は登山の対象として有名なだけでなく、芸術分野にも多大なる影響を与えています。葛飾北斎が描いた「凱風快晴」はあまりにも有名です。
日本人なら誰しも、独立峰で美しく裾野を広げる富士山を誇りに思うのではないでしょうか。
また、自然災害が多い日本だからこそ、古代の人々は自然を畏れ、敬い、神道という日本独自の宗教が今まで発展してきたのかもしれません。
いずれにしても、自然のことを理解した上で「正しく恐れる」ということが大切であると思います。地球レベルの大地の変動は、人間にコントロールなど到底しえないものです。直近の脅威といえば、南海トラフ地震と富士山噴火だと思います。どこか遠い未来のように感じてしまい、切迫感を持って備えておくというのは難しいと思いますが、少しづつ食糧を備蓄しておくなど、できる備えからやっておいた方が良さそうです。
日本列島にこれからどのような大地の変動があるのか、本書を機に考えてみるのも面白いと思います。