読書の森〜ビジネス、自己啓発、文学、哲学、心理学などに関する本の紹介・感想など

数年前、ベストセラー「嫌われる勇気」に出会い、読書の素晴らしさに目覚めました。ビジネス、自己啓発、文学、哲学など、様々なジャンルの本の紹介・感想などを綴っていきます。マイペースで更新していきます。皆さんの本との出会いの一助になれば幸いです。

「代表的日本人」 内村鑑三

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今こそ名著「代表的日本人」内村鑑三 

日本能率協会マネジメントセンター

 

今から112年前の1908年、「代表的日本人」は英語で出版されました。内村鑑三は日本的精神性とは何かを広く海外に知らしめるためにこの本を著したのです。岡倉天心茶の本」、新渡戸稲造「武士道」と並び、大日本人の一つに数えられています。本書は現代語訳で大変読み易いです。

 

●本の概要

 

日露戦争に勝利し、日本が近代化に邁進していた時代、西郷隆盛上杉鷹山二宮尊徳中江藤樹日蓮という5人の日本人の生き方を通じて、日本人の精神性を海外に知らしめた一冊です。

キリスト教徒でもある内村鑑三が、聖書の言葉も引用しながら、日本人の精神の有り様を生き生きと描いているところが本書の特筆すべき点であると思います。

 

●本書の魅力

 

本書は単なる海外向けの日本の偉人伝ではありません。5人の偉人の生き方を通じて、西欧文明に勝るとも劣らない深い日本の精神性について述べているところが魅力です。

当時の形式的な西洋化に対する日本への鋭い批判も随所に見られます。人物伝に留まらず、思想的なスケールの広がりも感じられる作品です。確かな価値観が揺らぐ現代、本書の持つ意義は大きいのではないでしょうか。


明治維新の立役者‐西郷隆盛

日本的精神性を著す人物として、西郷隆盛が紹介されております。


明治維新の立役者である西郷隆盛は日本人の誰もが知っているところですが、彼の生涯、エピソードから、彼の人柄がリアリティ溢れる形で伝わってきます。

本書を読む前は何となく豪快なイメージがあった西郷隆盛でしたが、実はおとなしく、地位には執着しない、飾らない人柄だったようです。しかしやはり、一度決めたら突き進む信念と内なる情熱を秘めていたことが本書から伺えます。西郷は明治政府で征韓論を唱えましたが、内治優先派と対立して下野。薩摩藩に戻り、藩の人たちに担ぎ上げられる形で西南戦争を引き起こし、最期を迎えます。征韓論は過激な思想に思えますが、彼は極めて冷静に欧米列強と肩を並べるための方策を考えた末の結論だったようです。

 

●偉大な改革者ー米沢藩主 上杉鷹山と 農政改革家 二宮尊徳
 

上杉鷹山は江戸時代、藩主として不可能と思われた米沢藩の財政を立て直した人物です。徹底した節制を自らに課し、領民のことを何よりも大事に考えた結果です。


本書からは鷹山が「徳」によって藩を治め、身を切る改革を断行することによって、領民の行動を促したことが伺えます。自らの行動に反対する者たちが現れた時も、まずは民衆に対して自らの行動が正しいかを問う、という極めて民主的な方法によって対処しています。


二宮尊徳(通称:二宮金次郎)は小学校の銅像でお馴染みの人物ですが、まさに「爪に火を灯す」苦しい生活の中、勉学を続けていたといいます。「自然はその法に従うものに豊かに報いる」との信念のもと、どんな荒んだ民の心にも誠意をもって向き合い、途方もない公共事業を次々と成し遂げていきました。

 

●「信念の人」ー儒学者 中江藤樹宗教改革者 日蓮

 

儒学者中江藤樹は「謙虚であること」という信条を大切にし、自らの信念を貫き通した儒学者です。彼は小さな村で儒学を教え続けました。藩主の池田光政が教室に見学に来た際にも、子供たちへの授業を優先して、池田光政を外で待たせた、というエピソードなどが紹介されています。中江藤樹の、地位にへりくだるのではなく、自らの信念にしたがって行動する、というところがよく表れたエピソードであると思います。


日蓮鎌倉時代日蓮宗の開祖。日蓮は港町の漁師の家に生まれ、仏教を学んでいましたが、学んでいるうち、「仏陀の教えは一つなのに、何故いろいろな宗派があって、それぞれ考え方が全く違うのか」という疑問を抱くようになりました。

彼は本来の仏陀の教えに立ち返るべきではないか、という考え方を持っていました。そして、ついに出遭ったのが妙法蓮華経」またの名を「法華経でした。

本書では、他宗を攻撃する激しい人物であった一方、身内には穏やかな顔を見せていたというエピソードも照会されています。家柄が良いわけでなく、何の後ろ盾も無い中であらたな信仰を広めていった日蓮の業績をドイツの宗教改革者、ルターの功績になぞらえているところが本書の面白いところです。

 

●感想

本書は、英語で、西欧の人向けに内村鑑三が書いたものですが、日本語で、現代の日本人こそ読むべき名著ではないでしょうか。読み通すと、内村鑑三がどうしてこの5人を選んだのか、意図がだんだんと見えてきました。思慮深く、自分の信念にしたがって行動する偉人がいたことを海外に知らしめたかったのだと思います。

本書はNHKの100分de名著でも照会されましたが、そこで批評家の若松英輔さんは、「偉人伝として読まない」「自分にとっての意中の一人を見つけよ」というユニークな読み方を提示されていました。本書で紹介されている5人について、読者の中にはシンパシーを感じられる人、感じられない人、様々いると思います。「自分がもし、海外の人向けに偉大な日本人を紹介するとしたら、どの人物を推すだろうか」などと考えながら読んでも面白いと思いました。